書評

よもやま話

僕は登校拒否児である、を読んだ

知っている人はよく知っているが、知らない人はまったく知らない、児童精神科医の故・渡辺位(わたなべ・たかし)氏の正体が書かれている本です、小泉零也著『僕は登校拒否児である』、でも別に渡辺氏の話がメインではありません、不登校や学校教育のあり方を問う自叙伝であり、ポエム集であったりするのですが、やはり一番パンチが効いているのが、渡辺位氏にまつわるエピソードです。  著者の小泉零也氏が子どもだった頃、千葉県の国立国府台病院に通うことになるのですが、そこで担当医として待ち構えていたのが、児童精神科医渡辺位こと、悪魔のワタナベでした。  ワタナベは頭痛を訴える小学生だった著者に、頭痛薬と称して〝抗精神病薬...
よもやま話

「山奥ニート」やってます。を読んだ

2回読んだ、おもしろかった。村人全員R80の超限界集落で、原田知世うたうところの天国にいちばん近い村で、マウンテン・ニートが15人も集まって生活しているのですからな。  ヘンリー・デイビット・ソロー『森の生活』は2年間、マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』のは1年間。山奥ニートは5年間やっていて、しかもまだ継続中です。  私は縁があって、山奥ニートがまだいなかった頃の共生舎も知っています。当時の代表であった山本さん(敬意を込めて翁と呼ばしてもらいます)の思想を、この本で初めて知ることができました。俺要約すると、 「人には自分にあった履物がある、靴に足をあわせるんやない、昔わら...
ひきこもり

怠け者になりなさいの思想

水木しげる先生の思想を誤解していました。「怠け者になりなさい」という先生の言葉を私は、がんばらなくてもいいんだよ、自分のペースで生きていけばいいんだよ、そんなありがちなメッセージのひとつと解釈していたのです。が、水木先生のエッセイを読んで、それが全然ちがうということに気付かされました、こうなのです。 「99%の人間は無能なんです。いくら努力したって始まらないです。無駄な努力というものです」 by 水木しげる  我々しもじもの人間をバッサリと切っておるではないですか。おやおや、では水木先生自身はどうなんですか? というと「水木さんはアタマが良かったから」とおっしゃるのです。先生は我々の仲間ではな...
よもやま話

書評『自立へ追い立てられる社会』の第15章

『自立へ追い立てられる社会』の15章「教育支配からの逃走、戦略はゾミアが知っていた」伊藤書佳、を読んで語る、よもやま話です。  金井康治。たぶん誰もしならないだろうけれど、金井闘争の当事者です。金井闘争とは、金井くんが養護学校はイヤだ、障害があっても普通学校に通いたいと主張するも、学校に拒否されて通えない、それにもめげず自主登校という形で無理やり学校に行くも、文字通り門前払いをくらい外で立ち尽くすという、そんな40年くらいまえの闘争のことです。金井くんは、当時小学生。  そのあと小学校には行けなかったものの、中学校からは普通学校に行けるようになります。でもそこで待っていたのはクラスメイトからの...
よもやま話

書評『三人姉妹』

「モスクワへ、モスクワへ」と三人姉妹がただ言い続ける作品(戯曲)。読んでない人はまさかそんなはずはないと思うかもしれないが、読んだことのある人なら、当たらずといえども遠からずと思っていただけるのではないか。  井伏鱒二や太宰治も大好きだったロシアの文豪チェーホフの四大戯曲のひとつです。アイドルも舞台で演じています。そういうきっかけがなければ、誰も読まない作品だと思う。三人姉妹より、『桜の園』のほうが有名だけど、あえて三人姉妹を取り上げます。  両作ともつまんないけど、桜の園がつまらないのには理由がある。主人公の貴族たちが没落していく一番の理由が、農奴制度(奴隷制度)の廃止だからです。主人公たち...
よもやま話

書評『回想の太宰治』

津島美知子『回想の太宰治』がおもしろい。内容を一言でいうなら、太宰おちょこ伝です。  その前に、読書人たるもの、作家の書いた小説を読むべきです。作家がどういう人だったとか、作品の舞台裏とか、そんなことは関係ないはず。が、作家が故人であると、もう新しいものを読むことはできないわけで、ファンとしてはこういう回想録に手をだしてしまうのもしかたがないこと、と言い訳をしておきます。  太宰の本妻が書いただけあって、しみじみと太宰の器の小ささを後世に伝える、いい逸話がたくさん書いてあります。そのなかで、私の心にいちばん響いたのが、太宰の〝ケチっぷり〟です。  太宰は小説のなかで、自分は吝嗇だ、ケチだという...
ひきこもり

告知『いまこそ語ろう、それぞれのひきこもり』

只今発売中の『いまこそ語ろう、それぞれのひきこもり』林恭子・斎藤環編に、私もちょろっと書いております。  自分の文章って、書いてからしばらく経つと恥ずかしくなるので、どうしても読めないかったのですが、現実逃避して見本誌を放置しておくのもよくないと思い、先ほど勇気を出して自分の書いたものを読み返してみました。  ちょっと前半、文章がもたもたしているけれども、後半になればちょっとおもしろくなるぞ。よかったら手にとって読んでみてください。生臭いけどアマゾンのアフィリエイトを貼っておきます。
よもやま話

書評『走れメロス』

太宰治が、走れメロスを書くきっかけになったのが、熱海事件といわれるものです。  どういうものかというと(細かいところは省略します)、旅行で借金をつくった太宰が、親友である檀一雄を借金の人質として旅館に残し、東京に金策にでかけました。だけど太宰は行ったっきりで戻ってこない。壇がしびれをきらして東京に行くと、太宰は井伏鱒二と将棋を指していたのです。あまりのことに壇が憤慨すると、太宰は「待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね」と言ったという。壇は、それ以上、太宰を責めなかった。  メロスは走ったけど、太宰治は友情と信頼のために、一歩も走らなかったのです。ただ、熱海の檀一雄をなかったことにして、放...
よもやま話

書評『お料理一年生』

これ一冊で、すべての料理をつくってきました。そして20年間、ずっと一年生のままです。ネギは茹でて食べるのか、それとも生で食べるのか、それすら分からないレベルの人向けの料理実用書であります。 「塩少々」と言われても、具体的にどれくらいの量なのか分からない。それほどひどい料理音痴に、手取り足取り、お料理一年生〝先生〟はやさしく教えてくれます。  私もこの本のおかげで、もやし、キャベツ、ほうれん草、ネギの食べ方を知ることができました。感謝。先生はお料理のことならなんでも知っています。  私は、『お料理一年生』をひきこもり推薦図書とすることにしました。  ひきこもりに必要な体力・免疫力をつけるのに、バ...
よもやま話

いまさら『砂の器』を読んでみた

太宰治と同い年、松本清張先生の代表作と言えば『砂の器』ですよね(あと『点と線』)。みんな名前くらいは聞いたことあるでしょう。映画にもなっているくらいだから、おもしろいはず、名作にちがいないと、ずっと思っておりました。  いつか読もうと思いつつ、今まで読まずにいた一冊、その『砂の器』をついに読みました。以下、ネタバレの感想です。これから読もうと思っている人は読まないでくださいね。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓  ハンセン病に対する差別問題に切り込んだ社会派ミステリー、と信じて読み始めたのですが、そんなんじゃない。『砂の器』はトンデモ推理小説です。とくに最後のトリックがひどい。犯人が殺人に使った凶器はな...
よもやま話

5分でわかる「金持ち父さん貧乏父さん」

いにしえのベストセラー『金持ち父さん、貧乏父さん』を読んでみたくなりました。それはマルチ商法にひっかかる頭の弱い人のバイブルになっているという噂を聞いたからです。  でも昔の本なのにかかわらず図書館では全部貸出中、しかも予約が14件も入っているという人気ぶり。でも、いまさら新品も買うというのも悔しいから、諦めていた、つまり読んでいなかった。でもようやく古本で手に入れることができました。  読んだ。いかがわしかった。きなくさいにもほどがある。「わたくしは詐欺師でございます」と著者のロバート・キヨサキ氏が自白しているとしか思えない。  キヨサキ氏の主張をひとことで言うと、「現金を持っとるなんてアカ...
よもやま話

読まずに語る、「下剋上受験」の人生のしくみ全否定

※桜井信一氏からの削除の申立てに配慮し、一部内容を削除変更しました。(2015/03/16)  ごちそうだよ、中卒の父親が、親塾こと家庭教師となり、娘と一緒に勉強しながら難関中学に挑戦する(結果は第1志望は不合格)ドキュメンタリーブログが、「下克上受験」という本になり、発売中とのことです。偶然、ここのニュースサイト→「中卒の父、娘と難関中学に挑戦「下剋上受験」 壮絶な勉強記録 ブログが人気に 」で知りました。さあ、ご紹介しましょう。 ↑※ニフティからの指示にしたがいモザイク画像を変更しました。(2014/12/04) ※塗りつぶし画像に変更。(2015/03/16)  「人生のしくみ」←ここを...
よもやま話

本を紹介 俺書評『超ウルトラ原発子ども』と『かわいい手紙』

超ウルトラ原発子ども  ばーん。ゴリゴリの反原発読本が20年の時を経て、重版されます。著者の伊藤書佳さんは、私の本の編集者です。不安を煽るな! そんな言葉は通用しません。チェルノブイリ、内部被爆、石棺、鉛、コンクリート、槌田敦、と不安を煽る言葉しか載っていません。日本一わかりやすい原発の本としてロングセラー、すでに1万部ほど売っているそうです。  大丈夫、落ち着けと言っている大学教授など敵うわけもありません。16歳の時から反原発運動を開始したゴリゴリの反原発派です。「何をちょこざいな、片腹痛いわい」。原発事故はおさまる気配もなく、一ヶ月以上が経ちます。「いよいよ、わしの出番じゃな」、そう言わん...
よもやま話

追伸・瀬戸内寂聴のケータイ小説「あしたの虹」

瀬戸内寂聴のケータイ小説でのペンネーム、“ぱーぷる”について私は大きな勘違いをしていました。ぱーぷるという言葉の響きが、かわいいからという理由で選んだのだと思っていましたが、源氏物語の作者「紫式部」の紫の部分を英語にするという、ダジャレであると、職業訓練中にハッと気がついたのです。ダジャレGメンとしては悔しくてなりません。目の前で堂々と万引きしているのに気づかずに見逃してしまった気分です。寂聴先生は、今頃、ぺろりと舌を出し、エッヘッヘッと笑っているに違いありません。  主人公ユーリの恋人の名前も、光源氏のダジャレで「ヒカル」です。つまり寂聴自身が紫式部で、ケータイ小説が現代版・源氏物語というわ...
よもやま話

瀬戸内寂聴のケータイ小説「あしたの虹」

生臭い尼さん、瀬戸内寂聴先生が匿名でケータイ小説を書いたというニュースは皆さんもご存知のこと思います。無視していたのですが、ネットサーフィン(死語)をしていたら偶然発見してしまいました。これも定めなのかもしれません。   ペンネームは「ぱーぷる」です。いかがなものでしょうか。私は一発でやられてしまいました。悔しいですが、数ある日本語から「ぱーぷる」を選び出すセンスに負けてしまいました。ちょっとだけ読んでみましょう。  『あしたの虹』、86歳の尼であり小説家、ぱーぷるが書いた、初のケータイ小説です。女子高校生のユーリが主人公。文章からは、セーラー服を着た瀬戸内寂聴先生しか想像できないのですが…。...
よもやま話

書評『21世紀への階段』(3)

60年前に発売された科学技術省監修の未来予想本『21世紀への階段』、第三章の見出しは長命の退屈。21世紀は長生きの世紀と予想している。この第三章まるごと予想大当たりなのです。長寿、高齢化社会、成人病は増える、精神病も増える、臓器移植も出来るようになる、アレルギー病が目立つ、漢方が再評価されると、もう医学は正しく進歩したとしかいいようがない。予想した専門家も、それを実現した21世紀人も立派だ。  人工心臓などの人工臓器が出来るとも書いてある。当たっているんじゃないの。ただその人工の臓器のイメージがちょっと違う。右下は21世紀の人々が人工心臓や人工胃をポケットに入れている、という絵。うーん、ミキサ...
よもやま話

書評『21世紀への階段』(2)

人類は正しく進歩しているのだろうか。20世紀の知識人たちが書き記した科学技術庁監修の『21世紀の階段』という本を読むと何となくそれが分かる。第二章のタイトルは「人間代用品量産に入る」だ。人間の代用品? それはロボットでありコンピュータのことなんす。労働からの解放という見出しが目を引く。20世紀の知識人が描いた未来の日本では、21世紀の人類は労働から解放されていなくてはいかんのです。まあ、私みたいな解放人も例外としているにはいるけどね。  本の中の21世紀はオートメーションの時代。機械が自動でやってくれる時代で、人間はスイッチを押して、出来上がったものを取り出すだけ。なにもかも電子レンジ、ああい...
よもやま話

書評『21世紀への階段』(1)

ひきこもりはいつだって未来のことばかり考えさせられている。将来どうするんだ、親が死んだらどうするんだ、ホームレスになるぞと心無い人間に脅され、未来のことばかり考えている。でも未来というものは科学者や政治家という人たちこそが考えることなのではないだろうか。責任逃れし、負の遺産を子どもに押し付けてばかりではいかんのです。  21世紀への階段という本がある。1960年、今から60年前に科学技術庁が監修発売した本格的未来予想本です。SFではない、科学者、技術者、政治家が40年後の21世紀の日本はこうなってしかるべきということを書いたものです。そこには21世紀の理想の姿、正しい科学の進歩、豊かな社会、人...
ひきこもり

人格改造マニュアル

何度も繰り返し読み、影響を受けた本。人の脳にはいろんな能力があるわけだです、学校や会社で必要とされる力はちょっとだけ。思考力とか創造力とかいらない。人に本来備わっている、生きるのに必要な能力(脳力)を出している暇なんてない。疲労感を脳に伝える物質など、ないほうがいいと思えるような世の中なのです。そんな日常生活を強いる社会に対する怒りが、この本の底流にあります。  本来の人として、脳に備わっている力を発揮できる生活がしたい。改造すべきは人格ではなく、世の中だ。それを百も承知の上での人格改造なのです。 ※2021/06/29 ちょい修正