呪い釘 宇江敏勝  俺読書メーター

 宇江敏勝『呪い釘』を献本して頂きました。

 和歌山3大文化人と言えば、南方熊楠、佐藤春夫、中上健次ですが、実はもう一人いる。それが宇江敏勝なのです、が、前に上げた三人ほど評価されているというわけではない。

 おそらく日本最後のガチンコの山びとです、そしてずっと文学青年をやり続けている作家でもあります(現在81歳)。ガチンコの山びととは、現代人では一日として耐えられないような山暮らしを平然としてやってのける強靭な肉体をもった原始人です。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活』が、ただのキャンプ遊びに思えるほどの、強さを持った人です。

 宇江敏勝は、ユネスコで世界遺産に登録された後の、軟弱な熊野古道になじめない(もしかしたらなじんでいるかもしれない)、平坦な土地にいくと本領を発揮できなくなってしまう(そんなことはないかもしれない)、そんな天然の山びとなのです。

 『呪い釘』は、4つの短編・中編が収録された、大正時代の熊野の山の宿を舞台とした小説集です。4編とも100年くらい前の話。小説の舞台である大正時代の山の宿はまだ電気も水道もない暮らしですが、日本全体としては電気も水道もできて、電車も通り、道路には車が走るようになっている。世の中は便利になり、以前よりずっと楽に移動ができるようになったのですが、巡礼の旅に来る人は減っており、お客も少なく活気を失っている、そんな滅びゆく山の生活をしみじみ書いた小説で私にはごちそうであります、4編の中では「藤織りの女」が一番おもしろい(長い小説のほうがいい)。

 今ある、私たちが知っている熊野古道や本宮大社というのは、いうなればユネスコが世界遺産として育てた、養殖の文化遺産なんですよ。

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