クソフージョン -ゆるいBGM-

 店に入ると流れている、ゆるいBGM(background music)。古い洋楽をサックスで吹いているような、スーパーでかかっているやつ、あれに気持ちが吸い寄せられるのです。今日は行った店では、アルフィーの曲をクラリネットで吹いている演奏が、延々と流れていました。

 私の空想世界では、吹いているのはいつも社長で、学生時代に吹奏楽部だった社長が、趣味のサックスやクラリネットをテープに吹き込んで、店内で流している、そんなイメージです。ほどよくアップテンポでゆるい感じが、演奏はうまくはないけど権力はある、旦那芸の味わいがあって、たまらなく生ぬるい。誰も望んでいないインストゥルメンタルが、行けば必ず流れている。

 でも実際は、社長なんか関係なくて、たんなる有線放送の店内用BGMなのだろう。一種の環境音楽で、誰の気にも止まらないような曲を流し続けているのだけ。でも私はどうも気になってしまい、上機嫌でサックスやクラリネットを吹いている社長とその家族の発表会に一社員として付き合わされている気分になる。仕事場を私物化している経営者が頭から離れないのです。あの手の音楽のジャンルを、「クソフージョン」と命名します。

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