寝たきり要介護5老婆ママンはまだ生きております。ただ本日、検査のために入院しました。
朝起きて台所にいくと妹が来ていて、あれっ早いなと思うと同時に、ああ今日が入院の日かと気づいた。病院に付き添いとしてダディーと二人で行くのでしょう。私は「介護はしない」と宣言している人間なので、何も教えてもらえないのです。でもそれは仕方のないこと。
検査入院するのですが、そのあと特養老人ホームに入る予定なので、実質今日が老婆ママンとの最後のお別れです。もう、おたけびを聞くことはできない。そう思うと急にさみしくなってきました。早くもママンロスです(まだ生きているが)。
私は考えました。このさみしさをやわらげる方法はないかと、そして思いついたのです。おたけびを録音しよう、さみしさを感じたときに録音を聞くことにしよう、と。朝、昼、夜とたえずおたけんでいる老婆ママンですが、まさか本人の目の前にICレコーダーを付きだすわけにもいきません。相手は病人なのですから。
そこで私は遠慮深く、遠くからママンのおたけびを録音することにしました。自分の部屋の入口にICレコーダーをセットし、部屋から響き渡るおたけびを録音することにしたのです。
RECボタンをカチリ押し動作開始、私は静かにしてママンのおたけびを待ちます。しかし、どうしたことでしょう。今日に限って寝たきり要介護5老婆ママンがだんまりを決め込んでいるのです。
入院当日ということで緊張しているのか、それとも録音に気づかれたのか、とにかくずっと人間マナーモードのまま。もともと外面のいい老婆ママンですから、早くもよそゆきモードに入ってしまったのかもしれません。家族にだけに見せる、あの怖ろしい地獄のおたけびをやってくれません。
静かな時間が過ぎた後、病院からの迎えの人がやっ来ました。そしてそのまま、ドナドナの子牛のように、老婆ママンは車椅子に乗せられ、病院へと運ばれていってしまったのです。
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