ひきこもりと油汗と床屋

 床屋と歯医者、この二つの苦行にはいつも悩まされています。どちらもやっている間は、身動きができないでしょ、途中で抜け出せないっていうのが、ひきこもりノイローゼの私としては、プレッシャーなのです。それが辛いので、切腹スタイルの自分床屋さんをしているのです。自分で自分をバリカンで坊主にする。しかしこれも、つらい。普通に床屋に行けるような大人になりたい、後頭部を未確認でバリカン刈りをすることに、精神的に疲れていたのです。そんな私の目の前に誕生したのが、スーパー銭湯にある1000円床屋さんでした。

 スーパー銭湯の中に床屋がある。これだと、カットしたあとに、風呂に入る、ということを前提にカットしますすから、髪を切り終わったあと、髪の毛を掃除機で長々と吸い取る、あの時間がない。切り終わったあとは、ちゃっちゃっと、軽く髪をふりおとして終わりというのが大変よろしい。以前に韓国の銭湯には床屋があると聞いて、なんて便利なんだと思っていたが、その理想の銭湯with床屋の組み合わせが、近所のスーパー銭湯にできたのです。

 私と銭湯床屋の幸せな時間、それも長く続きませんでした。床屋さんといえば、まず髪の毛が服の中に入らないように、首にくるっと、ティッシュハチマキみたいなのを巻いたあとに、床屋エプロンみたいなのを巻いて、てるてる坊主になる。その時に床屋さんが「きつくないですか?」と一言聞いて、ハイと答えたところで、カットの始まる。

 きつかった。きゅっとヒモがね、首がしまる感じがしたのです。でも「キツイです」って言えなくて、「ハイ」と答えてしまいました。まあ、ただちに窒息死するレベルではない、10分〜15分、私が我慢すればすむ問題ですから、まあいいじゃないかと思っていたものの、体から汗が、サウナかなっていうくらいの、つぶつぶの汗が浮かび上がってきたのです。

 私のリクエスト髪型は坊主です。坊主と油汗と床屋、どうなるか。切られた細かい髪の毛のくずが、精神的ノイローゼから来る油汗とあわさるとね、頭にゴマふりかけでも、かけたかのように、切った髪くずが頭にへばりつきます。やばいと私も思うし、髪を切っている床屋さんも何が起こったのかと、びっくりします。室内の空調は完璧で、暑くも寒くもないのに、目の前に座っているお客は汗まみれで、しかも切った髪がことごとく頭にへばりつくといったあんばいです。

 非常事態になすすべなし。モンゴル出身の力士に喉輪をしめられているような、被害妄想に苦しめられながら、早く終われ、早く逃げだしたいと、それだけを祈るのです。侏儒の祈り。しかし首から上が急に汗まみれになった自分に対する、恥ずかしさで、油汗はどんどん出てきてきます。汗が汗をよぶ、心のハウリング現象です。脱水症状になっちゃうんじゃないかと心配になるくらい、ずぶ濡れ。こんな人間では、到底社会復帰など望むべくもないと、汗まみれのてるてる坊主は、絶望するのです。42歳、、ひきこもり、パニック障害。床屋さんも私も、黙ったままバリカンで刈りあげていきます。

 カットが終わる。床屋さんがごまふりかけ頭を、ふわふわしたほうきみたいなので、髪の毛くずを落とそうとしますが、油汗で、シールみたいに貼り付いた髪の毛は、ぴたりとくっついたまま、ぜんぜん落ちません。床屋さんも、手抜きができない性格なのか、ふわふわほうきで頭に付いた髪を落とそうと何回もぱたぱたさせるのですが、何の効果もなく、そのふわふわほうきが、うっすらと湿っていくのです。床屋さんの商売道具がダメになってしまう、そう思うと、自分の中にまだこんなに水分があったのかと驚くほどの、最後の涙ならぬ、汗が出てきてしまい、いよいよ死にたくなるのです。

 逃げるように店を出て、銭湯で頭を洗いました。2ヵ月位前の出来事です。あれ以来、また切腹スタイルの自分床屋に戻したのです。

コメント

  1. すんごい分かる!
    ワタシも床屋と歯医者は鬼門です。なんといっても拘束がキツイ[E:wobbly]
    髪は自分で3mmボーズカット! 歯医者に行くときは、お薬増量で切り抜けます。

  2. ごまふりかけのてるてる坊主。。想像すると可笑しいですね。笑
    人にとっては何でもないけど、自分的に恥ずかしくてしかたがないことってありますよね。そういう変なクセがあるのも自分の個性なんだと思っておもしろがるようにしてますが。

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