【解説】人生は何度でもやりなおせる~ひきこもりゼロを実現した町~【新プロジェクトX】について

 言葉でなにか言ってくるのなら、いくらでも反論してやろう、そんなふうに身構えて番組を見始めたのですが、甘かった。まさか「顔面」で圧倒してくるとは。12年ぶりに姿をあらわした「まゆみ」はもはや別人であります。

 人でも殺したのか…。どうしたらこんな怖ろしい顔になるのか、ただただ圧倒されてしまい、なにも頭に入ってこない。気がついたら45分は過ぎ、番組は終わっておりました。

 言語化なんぞ片腹痛しとばかりに、そのお顔だけですべてを物語るのです。映像の力。ブログに何を書いたところで、まゆみ氏のスクリーンショット1枚にすらおよびません。

 しかし言い訳をしていてもしょうがない。負ける勇気を持とう、そして共に語りあおう。NHK総合2025年02月15日放送、新プロジェクトX~挑戦者たち~「人生は何度でもやりなおせる~ひきこもりゼロを実現した町~』についてです(気がつけば放送から3ヶ月半以上も経過していました)。

① なぜか番組冒頭、おじさんアナウンサーに釘を刺される

 「家にいざるを得ない、家にいたいんだ、という個人の選択が否定されるわけではありません。ただ、この町は、働きたくても働けない、望んでいないのに孤立してしまった。そんな人たちが社会とのつながりを取り戻すための仕組みを作り、そうした人々をゼロにしたんです」by おじさんアナウンサー

 おじさんアナウンサーは一般視聴者に向けて語りかけている、訳ではない。おそらく、仮想敵である我々に釘を刺しているのです。あなたはあなた、私は私、それぞれ別々にやりましょう。私たちはあなたたちのことは否定しませんよ、でもあなたはどうせブログに悪口を書くんでしょ、と先回りし、こんなことを前もって語るのです。

 しかも否定しないと言っておきながら、番組のなかでずっと俺たちを「否定」し続けるという、なんとも嫌味たっぷりな番組構成となっております。

 ちなみに、番組内で藤里町社会福祉協議会(社協)の菊池まゆみ氏を「まゆみ」とファーストネームで呼ぶのは、藤里町の社協に3人の「キクチ」がいるためです。プロジェクトXおなじみのナレーター田口トモロヲ氏も、菊池氏のことをずっと「まゆみ」と呼び続けています。それにならい、当ブログでも菊池氏のことを「まゆみ」と呼ばせていただきますぞ。

②藤里町こみっと、時給110円~550円
 ひきこもりをゼロにした奇跡の町、その町に住む奇跡のリーダー、それが藤里町社会福祉協議会の事務局長、菊池まゆみ氏であるという設定で番組は進んでいきますが、12年前に放送されたクローズアップ現代で明らかになった衝撃の事実は、藤里町にある中間労働支援「こみっと」の時給が110~550円だということです(このことは過去にも書きましたが重要なので繰り返します)。

 さらに藤里町にはプライバシーという概念がなく、個人情報はダダ漏れ、住民の密告をもとに、社協の職員が呼んでもないのに押しかけ来るのです。

 秋田県といえば、なまはげ。「悪い子(コ゚)は居ねがー」のあのなのはげ。これを「ひきこもりは居ねがー」に変えたものが藤里方式と呼ばれるものなのです。

 藤里方式=なまはげ方式。

 そういうものだと思ってもらいたい。
 そんな悪しき実態が、12年前のクローズアップ現代で暴露されてからというもの、藤里方式は忘れ去られ、藤里町のことを口にする人はいなくなりました。なのに新プロジェクトXで、成功物語としてNHKに再登場となったのです。いかがなものでしょうか。

③ひきこもりゼロのからくり

 「まゆみたちの取り組みへの参加者は5年で70人を超えた。113人の引きこもり状態にある人のうち、86人は介護施設や民間企業などで働き始めた。27人は医療や福祉と繋げ、社会から孤立した人は0になった」by 新プロジェクトX

 参加者70人ということは、113人のうち40人ちかくは「まゆみたちの取り組み」に不参加だったのですな。それでゼロにしたはおかしくないか。どさくさまぎれに手柄を増量していないか、まゆみよ。怖ろしい顔は私には通用しないぞ。

 さらに藤里町にだけ存在する時給110円~550円でそば打ちをさせられる中間労働支援施設「こみっと」があることがゼロにした(ことにする)ために重要な仕掛けとなっていることも重要です。こみっと流の超低賃金が合法であるなら、民間企業で働き始めることなんて簡単なこと。こみっとで働いたといる人も含めての、ゼロとはおかしくないか。

 医療や福祉とつながった、だからゼロだというのは、藤里町だけの定義です。一般的にというか、全国的には、病院に行った、福祉制度を利用している、だからひきこもりゼロだというふうにはなってはいません。マイルール、マイ定義でゼロにしたとはおかしくないか。

 現在NHKのサイトで、12年前にクローズアップ現代で放送されたものを短く編集した動画が公開されています。そこではプロジェクトXでは〝カット〟され、なかったことにされている、「時給110円~550円」の真実が報道されております。マニアはチェックしておくように。

④藤里町と国の方針の一致

「2015年、生活困窮者自立支援法が施行された。ひきこもり支援が名文化された初めての法律である。施行前、藤里町に法案の作成に関わった国の官僚たちがやってきた。皆驚いた。人口4000人の町が新しい法律を先取りしていた」by 新プロジェクトX

 自立支援の名のもとに、給付や手当を廃止もしくは減らして、就労訓練に置き換えていく。まさに国がやらせたいこと、やらせていることです。支援のお金は困っている人には渡らず、訓練する支援者の人件費に消えていく。そういう意味で藤里町は、新しい法律を先取りしてはいました。

 早期発見、早期訓練。そのための調査、情報共有、管理、モデルケースとしての「こみっと」。国がやれないグレーなことを、先駆けとしてやっておりました。

 それゆえに厚生労働白書に藤里町の取り組みが、〝 フロントランナー〟として紹介されているのです。厚生労働省のフロント団体なのです、藤里町の社協は。

⑤まゆみ氏の信念はどこから来ているのか

「それは10年前、新人時代のことだった。見守りをしていた高齢者の家で、ひきこもり状態にある30代の息子と出会った。なんとかしたい。そう思ったまゆみは上司に相談した。しかし、止められた。自分の仕事をしろ。社会福祉協議会は、役場と連携して高齢者の見守りを行うのが主な仕事だった」

「その後、父親は亡くなり、息子も数ヶ月後に病死した」by 新プロジェクトX

 という個人的な体験から、まゆみ氏の信念は生まれています。ひきこもり状態にある人を放っておくといずれ病死する、そんなところからきている。スタジオではこのように語っています。

「ひきこもり状態にあるっていう方々は何人か見ていました。ただ、親御さんが亡くなった時に入らせていただくことになると、もう手遅れっていうのかな、もう病院に入るしかないのかなっていう状態になっいて後悔しました。もっともっと嫌われてもいいから、もっと早くに入れば良かったなっていうふうに思っていましたので。だから怒られるくらいでいいやって感じで、後悔よりはましだっていうふうに思います」by まゆみ

 「手遅れ」とはっきり言っておりますな。手遅れの人間とはどういうことなのですかな。「病院に入るしかない」とはどういう人間のことを指しているのですかな。

 手遅れだと思う人間は相手にせず、そうなる前に「嫌われてもいいから」嫌われることをする。

 まゆみ氏が高齢者の見守りというものに熱意を持たなかったのも、人に対して「手遅れ」という言葉を平気で使うような人間だということと関係があると思う。こういう人が福祉の現場に入ると、困った人を助けるよりも、困った人にならないように予防することに熱中する。ひきこもり予防、ひきこもりワクチンとしてのまゆみ氏であり、藤里町なのです。

⑥まゆみ、スタジオに登場
 スタジオに登場した、まゆみ氏。
 以下プロジェクトXのナレーション風にお読みください。

 まゆみは、顔面ですべてを物語った。
 おじさんアナウンサーは、空気と化した。
 花子では、敵わなかった。
 まゆみは言った。
「まゆみではない 拳王と呼べ」


   
 はうあ。これは私の心のなかの空想ナレーションです。番組内でこのようなナレーションがおこなわれたわけではありません、まゆみ氏の選択が否定されるわけではありません。

⑦語り尽くせない、多くの問題がありすぎる
 番組の問題点を点検していこうと、録画DVDを再生し、一時停止、メモをとるなんてことをやり始めると、もう、毎分毎秒というのはおおげさですが、活動弁士としてスクリーンの横で話す以外、方法がないのではと思うくらい、次から次に問題点が出てきます。全部を書いていたら、それで人生が終わってしまう。やや中途半端かなと思いつつも、ここらへんで終わりとし、日常生活へと戻らせていただきます。

 まゆみと出会ったその瞬間、うぬの頭上には死兆星が輝いているはず。宿命の対決に備えよ。

⑧追伸、まゆみ氏の三男の自死について

「こみっと開設準備の最中、三男は自ら命を絶った。まゆみはひきこもり支援をやめようと思ったが、自分にこそできることがある、と思いとどまった」by 新プロジェクトX

 三男の死を乗り越えてプロジェクト推進という、人の死を美化したドラマ、靖国の母だ、と最初は思ってしまいましたが、録画をじっくりと見直すと、実は三男の死はまゆみ氏の行動にまったく影響を与えていないことに気がつきます。

 まゆみ氏の信念というのは、手遅れになる前の段階での〝 第三者〟による介入なのです。家族は関係ない。家族以外の人が、相手が嫌がり、相手から嫌われるようなことをすることが大事だと思っているのです。

「我が子がひきこもっているのに、他人のひきこもりの世話すんのか」と長男に言われようとも、三男が自死しようとも、まゆみ氏の信念はゆらがなかったという、ただそれだけのことなのです。

 なんとなく番組を見ていると、三男の自死がまゆみ氏の転機となり、こみっと開設へ邁進していく、そのような物語なのかと勘違いしてしまいますが(私だけかな?)、ここはひっかけ問題というか、論点が違う。まゆみ氏の人生と深い関わりのあることですが、まゆみ氏の信念及び行動と、三男の自死はなんら関係がないのです。

新プロジェクトX~挑戦者たち~ 人生は何度でもやり直せる ~ひきこもりゼロを実現した町~ −NHKオンデマンド
月額990円(税込)でNHKの名作見放題!ひきこもり状態の人をゼロにした秋田県藤里町。偏見と闘いながら、孤独や生きづらさを抱えた人々の可能性を信じ社会とのつながりを取り戻した、小さな町の知られざる物語。

コメント

  1. 勝山先生、お久しぶりです。勝山商事オリジナルTシャツを購入してひきこもり十大弟子の候補となった九州男児です。
    十数年前まで実家を離れて賃労働で生計を立てていましたが、精神疾患を発症し実家に戻ってひきこもり土着民生活となり、ひきこもり年金をもらいながら生活をしております。
    この数年の間にダディーとママンを亡くし、今は一人暮らしをしております。勝山先生の教えを乞い、涅槃を目指したいと思う今日この頃です。

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