ひきこもりブッダ全国巡礼ツアー 東京女学館大学編

 かねがね、実験動物の猿として大学に呼んで欲しいとリクエストしていました。ひきこもりに興味を持つ大学生に、野生のひきこもりを最初に見てもらいたいからです。ひきこもりはかわいそうなんて気持ちも、怠け中年オジサンを見れば吹き飛ぶでしょう。教育の問題というよりは、介護とかホームレス支援に近いのでは、と心が引き締まるはずです。

 こいつを就労させようなんて無理だ、そんな圧倒的現実を本や話で学ぶ前に、ダイレクトに私から体で学んで欲しい。そうしないといつまでたっても、レンタルお姉さんのようなカメムシ支援がなくならない。

 東京女学館大学というところに行きました。S先生、その社会実習の授業に呼んでもらいました。夢がかなう。どーんと、ひきこもり魂を教え込んでやろうと、張り切ったのは最初の一分くらいで、すぐに学生の皆さんのお役に立てない、井の中の蛙であることを再認識しました。

 我々ひきこもり軍団の常識が通じないのです。「高校ってつまんないじゃないですか」というつかみから、話を進めようとしましたが、すぐにストップです。「高校はおもしろかったよね」と言うのです。楽しく高校に通っている人がいるとは……、39歳で初めて知った事実でした。

 朝起きるのは面倒だし、気の合う友達はいないし、部活はつまんないし、とほろ苦い、あるあるネタを並び立てましたが、女学生のみなさんは「ないない」でございます。私がひきこもり始めたのは1990年と言ったところ「私たちが生まれた年だ」とおどろいていました。私が暗黒高校をやめて世間に背を向けていたその時に、赤ちゃんとしてこの世に生まれてきたのです。話し始めては、接点のなさに尻つぼみ、そんなトークでした。

 「高校はおもしろかった」と言われると、話の引き出しがぐっと少なくなってしまうのが情けなかったです。学校は刑務所だ、と言ってオーディエンスの歓声を浴びてきた、ひきこもり名人のトークが通用しないのです。もはや学生に教わるしかありません。

尾崎豊を知っていますか?「それって、盗んだバイクの人ですか」。
ガンダムを知っていますか? SEEDじゃなくてランバ・ラルが出てくるやつ?「そんなのあるんですか」。
エヴァンゲリオンは知ってるよね?「名前だけは……」。

 宇宙戦艦ヤマトやウルトラマンについて聞く勇気はありませんでした。不登校をせずに大学に来ているとこうも違うのか、私の知らないヤングが日本にいる、自分の視野の狭さを反省するばかりです。甥っ子に話す感じにしたほうがいいんじゃないかと、本番中にトークを模索している有り様です。

 高校をおもしろくするために部活をやればよかったんじゃないですか、女学生のほうからアドバイスをもらいました。私は、野球部に入ろうとしたけど硬球は当たると痛いからやめて、ハンドボール部に入ったけどつまらないからやめたと言う情けないメモリーをしゃべると、「それならバスケ部に入ればよかったんじゃないですか」と重ねてアドバイスをもらいました。さすがに堪えかねて、「そういう進路相談は20年前にしてくれればよかったのに」と当時0歳だった女学生にどうにもならない抗議をしてしまいました。

 それに私のようなガリガリが、バスケのタンクトップを着ると変でしょ、レスリングのユニフォームを着た時にクラスのみんなに笑われて恥ずかしかったという思い出に対して、大学生の反応は「それって、おいしい」です。笑われることを、おいしいと感じる気持ちは当時の私にはありませんでした。

 こんなかみ合わない話をずっとしていたのです。個人的に、大学生は生意気だというイメージがあったのですが、ちっともそんなことはなく、こんなおぼろげなトークに付き合ってくれる慈悲深くやさしい心根の持ち主ばかりです。「みなさんには慈悲の心がある。ブッダの心がわかっている」と賞賛したところ、「ブッダって……」と女学生のみなさん全員失笑です。

 自称名人を名のっておきながら、彼女たちに何一つ与えることもできずに授業はおわりました。帰りはありえないスコール、大雨です。ずぶ濡れになりましたよ。これはブッダからのお叱りだと受け止め、これからは謙虚に、自分は知らないことがいっぱいあるんだ、人に物事を教えてやろうなんて気持ちは捨てよう。人の過ちは、好んで人の師となるにあり。

※2018/12/05補足修正 東京女学館大学は2017年(平成29年)11月16日(文部科学省認可日)をもって閉学してしまいました。寂しいですねえ。

コメント

  1. グフもそうですが、ザクも物語が後半に進むに連れて
    紙でできているのでは…と思うくらい弱かったですよね。

  2. ランバ・ラルの操るやたら強いグフとその後に出てきて1話であっさり退場しちゃったグフ3機+ドダイYSとの比較話に発展しないなんて、まさに異文化交流ですね。
    自分も高校で部活やってたけど、顧問とか先輩の言いなりになってただけのつまらない思い出しかないけどなぁ。

  3. ガンダムでは誰が一番好きか? という質問は
    必ずと言っていいほどします。答えはひとつ、ランバ・ラル。
    小学校五年生くらいの時から、ゆとり教育が始まったと
    言っていました。もしこれがゆとり教育の成果なら、素晴らしいことだ。
    世代の違いは計算に入れていましたが、高校が面白かったは
    まさに想定外でした。自分の器の小ささを恥じるばかりです。
    三高の条件のひとつに、背が高いというのがあったと記憶していたのですが
    背が高いってなんのアピールにもならないと思うんだけどなー。のっぽでしょ。
    部品が違うという気はします。穀潰しにしろ
    怠け者にしろ、昔からいる人種であるはずなんですけどね。
    まさに異文化交流、私がひきこもりジャングルに住む蛮族で
    あちら様が近代的な民族です。

  4. 異文化交流ですね。
    僕はその学生さん達と同年代ですが、話題を見つけられる気が全くしないです。

  5. 相変わらず旺盛な活動力ですね(笑)
    ひきこもりは普通と違う人種(特異な遺伝子)なのではと、思いはじめてきました
    社会復帰も魅力も失せて、第三の道を探り出してるこの頃です

  6. 斉藤環の本に
    「3高」の人ほど幸福度が下がる。でもその事実を教師が言ったらおしまいだ。
    という記述があったことを思い出しました。
    勝山名人が講演した大学の教員や生徒の親の幸福度が高いから、話が噛み合わないだけで、幸福度の低い学校ならウケますよ。自信をなくさないでください[E:confident]

  7. 東京女学館…あそこの高校は偏差値が高くて制服も可愛いと聞きました。
    ハイレベルの学校出身者だと、勉強も遊びも何なくこなせるリア充型であることも珍しくありません
    (授業に出席した学生全員がリア充というわけじゃないでしょうけど)。
    話がかみあわなかったのはジェネレーションギャップと趣味の違いに加えて、リア充と非リア充の越え難い溝にあると思いました。
    それにしてもすごい所に仕事に行ったものですね。さすが勝山さんはひきこもり作家のパイオニアです。

  8. いつも楽しく拝見しております、と社交辞令で始まり、いや本当は何週間に一回くらいしか見ていないんですけれどというのが本音なのですが。そりゃ無理っすよ。今の大学生は完全「ゆとり」なんすよ。うさぎ跳びも真夏の炎天下の中、水も飲まされずにグラウンドを走らされたこともないニュータイプなんすよ。できなければ、それも個性さ、自分に合ったモノを選ぼうよと育てられてきたのです。給食が食べられなくても放課後まで食べるまで残されるなんてしません。好きなものだけ食べていいんだよと育てられてきたのです。そりゃ学校は楽しいわな。それに大学に来ている時点でリア充ですから、ネットとコンビニとブックオフの世界で住む人のことなどわかんねーだろうなぁ

  9. 女子大生ですねえ…
    ひきこもりの場合には冷蔵庫の話なんかすればいいんじゃないかと
    名人は、いつもランバ・ラルの話を振っているんですか、今度会ったとき一緒にグフのガンプラでもつくりましょう

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