ひきこもりドッペルゲンガー

 奴と出会って15年。いつも図書館にいやがって。ブックオフの105円均一コーナーに住んでるのかお前はと、心の中でいがみ合い、避けあっている。働いていないことはお見通しなんだぞ。

 ひきこもりが100万人もいればご近所に自分以外にも一人くらいいるはずだ。奴との出会いは15年前の図書館。日のあたらない哲学・思想コーナーでよく出くわした。奴と出会うたびに私は哲学という学問を恥じ、読書なんて人生の何の役に立たないんだと絶望した。奴を避けるように私は図書館ではコンピューターの本ばかり読むようになった。奴と一緒に同じコーナーに居たら人間がだめになってしまう気がしたからだ。奴もそう思っていたのだろう。

 ブックオフに行ってびくっとした。奴だ、奴がいた。100円均一コーナーの本棚にぴたとへばりついている。無職の貧乏人が小銭を握り締めて、古本をじっとりとながめていやがる。数分前の自分、いや数分後の未来の自分の姿を見せつけられるような不愉快さ。奴も気づいたようだった。すうーっと私から離れていく、「距離をとれ」と奴からのテレパシーが聞こえたような気がした。お互いに店内で、でくわさぬよう対角線上にポジションを取る。まるで同じチームで何年もプレイしている一流サッカー選手のような見事な連携だった。奴も私を見てああはなりたくない、あんな風になったらおしまいと見下していたのではないか。

 奴から学んだことは、無職は隠せないということ。無職のオーラはすごい。職安のあの雰囲気が全身から溢れているんだ。

 

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