かやいいやはああはーーー

 「うふーふー」「うえいうえうー」「でいてえー、でいてえー」 これなーんだ? 正解は、朝から晩まで勝山家に響き渡る、寝たきり要介護5老婆ママンのおたけびでした。正解できなった人は幸せですよ。

 寝ている時とヘルパーさんが来ている時以外は、基本的にこのようなおたけびが家でこだましております。老婆ママンのおたけび自体は以前からあったんです。が、だんだんインフレ化が進んできて、今ではほぼ一日中、老婆が「おたけんでいる」しだいあります。

 なぜ、おたけびなのか。ひとつは、病状が進み舌が自由に動かせず話ができないから。そしてなにより、おたけびをあげると、介護をしている老爺がなんでも言うことを聞いてしまうからなのです。

 とはいうものの、老々介護には限度があります。なんでも言うことを聞くというわけにはいきません。今はできないよ、あとでね、と断る時も当然あるわけです。しかしそんな生ぬるい拒否が通用するわけもありません。寝たきり老婆ママンがおたけびをあげ続ければ、無理が通り、道理が引っ込む、最終的に寝たきり老婆ママンの命令に服従することになります。

 最近、介護の手伝いに妹も頻繁に来るようになりました。これも元をただせば、おたけびの力でございます。寝たきり老婆がおたけびを上げ続ける→困り果てた老爺が妹に電話する→妹が介護の手伝いに来る、といったまるで戦国時代ののろしのような、司令系統によって実現したことなのです。

 しかし妹も忙しいですから、いつでもこれるわけではありません。今日は無理、また別の日にね、と断ることも当然あります。でもその程度の生ぬるい拒否では、老婆ママンのおたけびに吹き飛ばされてしまいます。無理が通り、道理が引っ込む、来れないはずだった妹もちゃんと来るのです。

 老婆ママンの趣味はベランダ園芸で、いまもマリーゴールドの花がきれいに咲き誇っております。おやおや? 老婆ママンは寝たきりでじゃないか、園芸は出来ないのでは……。それが出来るのです。おたけびを上げれば良いのです。

 「ふうううううーーー」「はあああああーーーっ」「かいやいいやはああはーー」、寝たきり老婆ママンがおたけびをあげると、催眠術にかかったかのように、老爺はホームセンターに行き苗を買ってきます、それを妹が鉢に植え、うつくしいベランダガーデニングが完成するのです。

 老婆ママンの介護をせず、妖魔術から逃れている私ですが、ひとつ屋根の下で暮らしている以上、おたけびからは逃れることができません。絶えずBGMとして、老婆のおたけびが聞こえてきます。さすがの私も「このままでは精神が破壊されてしまう」と思うほど、追いつめられております。

 地獄とは死んだあとに堕ちるところと思っていましだか、どうもそうではないようです。「いまでしょ!」とドヤ顔で言ってやりたくなるような、そんな有り様なのでございます。

マリーゴールド


この記事へのコメント

  1. タイトルで正解した私…
    確かに父親で似た様な経験があります(;^_^A
    しかし、名人のお母様は寝たきりですから、私の辿ったバットエンドには至る事はありません。まだまだセーフですよ!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です