クーデター失敗

 老婆ママン(推定74歳)が要介護5の完全寝たきりになってだいぶたつ。私は老婆マンとは、ハブとマングース以上に仲が悪いので、介護はしないと宣言をしており、実際になにもしていません。年老いた老爺ダディがひとりでママンの介護をしているのです。

 世間での介護がどういうものか知らないのですが、勝山家では、ママンが介護するダディーに向かい「バカ野郎」「冷酷人間」「尊厳(を傷つけるな)」と叱咤罵倒する、地獄となっております。歴史の授業で習った、白人と黒人奴隷の関係って、きっとこんな感じだったじゃないかなー。

 さて、ある日のこと、ダディーからママンの病名が判明したと聞かされました。難病、大脳皮質基底核変性症だったのです。ちょっと病気の度合いがひどいと思ってはいましたが、実は困っている人級の難病サバイバーだったとは。

 少し驚くとともに、難病が発覚した「今」こそ、胸に秘めていた介護奴隷ダディー開放計画を実行するときであると思いました、ひきこもりリンカーンが立ち上がる時は今しかない、私はダディーに言いました、

 「特養老人ホームにいれよう」と。老婆の世話は無理でも、老人ホームとのやりとりくらいは、ひきこもり親孝行息子の私でもやれる、最後にして最大の親孝行計画をダディーに提案したのです。すると…、

 「あっはっはっはっはっ」
 と、ダディーの高笑い。そして、話は終了。笑いごととして話がおしまいになってしまいました。あまりの反応に呆然としていると、地獄の鼎から、地の底に落ちたカンダタの声ともおぼしき、うなり声が介護ベットから聞こえてくるのです。寝たきり老婆ママンです。

 「うごお、ふごう!」
 何度も何度も、この言葉を繰り返します。もう病状が進み、何を話しているか聞き取れない、何を言っているか分からない。しかし、執念深く何度もいうので、じきに言葉の意味がわかりました。
 「うごお、ふごう!(親不孝!)」
 と言っていたのです。

 ママンの地獄耳に、いささかの衰えもなし。すべて聞いていたぞ、親不孝め。老人ホームなんぞに行くもんかい、と憤慨し、人殺しみたいな顔でベッドに横たわっていました。

 いったい何が親不孝者なのか、おおいに不本意でありましたが、ダディーによって一笑にふされてしまった以上、なすすべがありません。こうして、老婆ママンを老人ホームにいれる計画は失敗に終わったのであります。

コメント

  1. なんでパパンは笑ってるのかな?話を聞いてるとなかなか深刻な感じなんですけどね。ウチは学会のお陰で一家離散ですけどね(爆笑)

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